**「SDM」とは、「Shared Decision Making」の略語で、日本語では「共同意思決定」**と訳されます。医療業界において、医師による患者に対する説明のプロセスは、時代とともに変遷を辿ってきました。

かつて、医師による説明は「ムンテラ」(Mund Therapie=独語で「口での治療」の意。)と呼ばれ、治療方針は医師の意向によって決められていました。そこに、患者の意向が含まれることはなく、医師が手術と言えば手術を受けるといった、平たく言うと『お医者様の言うとおり』の治療が行われてきました。

やがて、『医師だけで治療を決めるべきではない』という考え方が広まってきたことにより、医師の説明は「IC」(Informed Consent=英語で「説明と同意」の意。)へと移り変わっていきました。「IC」のプロセスは、医師がそれぞれの治療方法についてのメリットやリスクを十分に説明したうえで、患者の同意を得て、患者自身が治療法を選択する、といったものです。がん治療において、手術か化学療法か、それとも放射線療法を選ぶか、という状況を想像していただければイメージし易いと思います。

そして、現在、そしてこれから先の未来を見据えるうえで、求められる説明のプロセスが「SDM」になります。高齢化によって疾病構造が感染症などの急性疾患から、がんや生活習慣病といった慢性疾患に変化する中で、病気を治すのではなく病気と上手く付き合っていくことが重要な時代に変化してきました。特に在宅療養をしている人では、その傾向がより顕著であるといえます。病気と付き合って療養生活を営んでいくためには、その人の生活スタイルや価値観、人生観に合わせた形で病気を診ていく必要があります。他の章で説明した「ACP(=人生会議)」もそうでしたが、その人のあり方と病状を患者と医療者でお互いに共有した中で、共に意思決定をしていくプロセスが「SDM」なのです。説明するだけにとどまらず、話し合いをしていくことが、時代に求められているのです。