**「グリーフ(Grief)」**とは「何かを失った時に湧き上がってくる様々な思いや感情を、外に出せずに閉じ込めている状態」のことを指します。日本では「喪失に伴う悲嘆」と訳されることが多いです。
近しい人の死はグリーフを引き起こす代表的なものの一つです。大切な人を失った感情は心の中に溜め込まれ、閉じ込められた状態になります。日本人は欧米人に比べて感情を表に出すのが苦手なうえに、気丈に振舞わなければならないといったしがらみや風習などが影響して、心の蓋が閉じたままになりやすい背景があります。(感情を表に出すのが苦手=心の蓋の蝶つがいが錆びてしまっている状態、しがらみや風習=心の蓋の上に重しがのっている状態をイメージしてください。)
グリーフの状態が続くと、心身に影響が出てきます。不眠や頭痛などの不定愁訴と呼ばれるような体調不良をはじめ、認知力や判断力の低下や感情の起伏が激しくなったり、逆に感情が乏しくなったりと様々な状態を呈するようになります。生きがいを感じられなくなったり、周囲との関係性が遠ざかって孤立してしまうこともあります。
こういったグリーフから抜け出すためには、心の蓋を開いて感情を外に吐き出すことが必要になります。心の蓋が開いている状態のことをグリーフに対して**「モーニング(Morning)」と言います。感情は言葉とともに表出することが多いため、何でも心置きなく話せる安心・安全な場を作り、話を聞いてもらうことが大事になります。もちろん、多くの感情を1回で表出し切ることは出来ないため、何度も繰り返して徐々にグリーフから抜け出していくことになります。この過程を「グリーフワーク」と呼びます。心の蓋は自分自身でしか開くことが出来ません。無理矢理開こうとするとむしろ固く閉じてしまいます。そのため、私たちが取るべきアプローチは、あくまでグリーフワークを行う本人のサポートをしてあげるという姿勢を崩さず、「グリーフサポート」**に徹することなのです。
死別を例に挙げましたが、世の中にはグリーフが溢れかえっています。卒業、進学、成人式、転職、結婚、離婚、還暦、退職といったライフイベントも、これまでの生活を失う機会としてグリーフと考えることができます。私たちはその度に、卒業式や入学式、送別会や結婚式といった行事(儀式)を行うことで、心の蓋を解放し、感情を表出することでグリーフから抜け出し、新たな生活に踏み出しているのです。コロナ渦で卒業式や成人式などを行えなかった人達の中に、その後の生活に馴染めなかった人が多かった一因にグリーフが関与していると考えることもできます。そういった意味で儀式はとても大切なものであり、葬儀や法事といった儀式もその過程で気持ちに折り合いをつけるために重要なものであると言えるでしょう。
人生の中でグリーフが数多くある中で、その頻度や回数が極端に多いのが、老後になります。今まで出来ていたことが出来なくなることは、まさに喪失であり、その度にグリーフに陥ります。歩けなくなったり、物覚えが悪くなったり、着替えや排泄が自身で出来なくなったり、と。その出来なくなったことを補うために介護サービスが必要となりますが、感情面に対するサポートはまだまだ確立されていないのが現状です。多くの高齢者が繰り返し同じことを訴えているのは、認知症が原因ではなく、グリーフワークを行っているのかも知れません。そういった視点を持って、療養生活に寄り添っていくことを忘れないようにしていきましょう。
参考文献:大切な人を亡くしたとき 著作・監修:橋爪謙一郎 発行:株式会社ジーエスアイ
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